トムの失敗、サマーの失敗〜「(500)日のサマー」〜

シネクイントにて「(500)日のサマー」を鑑賞。
前評判がどこを切り取っても「サマーの視点が語られない」「サマーは『わかりづらい対象』として描かれる」みたいな感じだったので、共感は期待せずに行ったのですが、全然わかりづらくねえじゃん。
非常にロマンティストで優柔不断なトムと、可愛いルックスに反して現実的で個性派女子なサマーの出会いと別れ、再会までを描いた作品なのですが、もうトムが!地雷を!これでもかと踏みまくる展開なわけで。その「地雷の踏み方」がまた巧妙というか、あさりの味噌汁食べてたら砂噛んでジャリッ!みたいな瞬間が多数あるわけなのです。「私あなたにそんなこと言ってほしくないわ」と喰ってかかられても仕方ないレベルで。その第一段階はサマーの部屋で、彼女の自分語りに対してなされるのですが、あの瞬間私は心にシャッターが降りるがしゃんという音を聞いた気がした。あれはないわ。あと、個人的に傷ついたのは映画のシーンね。「卒業」を観てボロボロ泣くサマーを慰めるのはいいんだけど、「ただの映画じゃない」と言っちゃうのがね。あの時点でふたりの心は離れ始めていて、だからこそ「卒業」のラストを観てサマーは悲しむのだけど、それを差し引いて考えても、何かに対して感動しているときに水を差すようなことを言う男の頭上には空から一億のたらいがふってくればいいと思うよ。がらがっしゃん。バーでの行動もひどかった。最初の段階でかばってくれればいいのにそれをしないで、最終的にトラブル起こしてさ。
一方でサマーですが、彼女のことも全面的には擁護できません。もちろん前述のように、女子として許せない行動の数々をトムは取るわけですが、それを差し引いて考えても、彼女の恋愛に対する態度は「傷つくのが怖い」の域を出ていないのよね。だって恋愛じゃなければ失恋もないし、友達だったら気が向かなくなったらセックスもキスもしなけりゃいいだけ…って、そんな虫のいい話はない。そういう価値観で生きるのは個人の勝手だけど、ふたりの関係が個人の関係を越えてしまった時点でサマーも本気の言葉を返さなければ、サマー個人がどれだけ頑張ったって無駄だよ。だいたい、作中で描かれるのはトムの傷だけど、サマーがそれに対して傷ついていないわけじゃない。本当にどうでもいいと思っていたら、パンケーキを頼んだりしないし、バーでの事件のあとにトムのもとへ押し掛けたりもしない。サマー、不器用だなあと泣きそうになりながら見ていた。結局傷つくなら、最初からダイブしておけばよかったのに。…たぶん彼女もそう思ったから、あの結末が待っているのだけど。
この恋愛はトムにとってもサマーにとっても「失敗」なのだけど、それを活かして次に進んでいく姿には非常に好感が持てました。トムは自分の夢をかなえるべく走り出すし(その「夢があるのに走りださない」姿にイライラし続けるサマーにも共感したんだよ私は)、サマーはサマーで、たぶん今の相手には「I love you」って言えてるんだろうな…と。ていうか衝撃的だったのは「サマーのおうちでガーデンパーティー」ね。あれねえ…あれはすごい光景だよ。ていうかトム、ガーデンパーティーとか言われた時点でもっと「ええええ!?君が!?」くらいのリアクションしなさいよ、どれだけのトピックかわかってんの…まあその詰めの甘さもトムだから仕方ないのか。「すべてが運命」という言葉はサマーがトムに言うべき言葉ではなくて、本当ならトムが自分で気付くべきところなんだけど、それでもトムは言われなきゃわからない人だとサマーがわかっているのは素敵だなと思った。人はそうやって成長していくんだ。


映画館で観たCMで「これは…!」と思ったものは「告白」でした。中島監督なのね。松たか子は舞台>映画>テレビの順で素敵だと思うのですが、彼女の滑舌の良さとか姿勢のぴっとした感じが活かされた撮り方っぽくて、あとは常々思っている「パガニーニの主題による奇想曲」は気持ち悪いという私の主張に合った音楽の使われ方が気に入りました。あと「BANDAGE」のぬるい雰囲気はなんなんだ。まだ「ソラニン」のほうが気合感じたよCM的に。あおいはリアルに漫画の登場人物っぽいと最近思う。童顔ですーっとした体型なあたりが。
あと、映画を観た後でグヤーシュの美味しいレストランに入ったんだけど、隣の席の女の子がいかにもっていう感じの子たちで、スイーツに「きゃ☆」となって「どうしようどうしよう決められなーい!」と大騒ぎし、友達の少ない仲間を見下す発言を繰り返しちゃったりして、ああこういう子たちにはサマーの美学は一生わかんねーんだろーなとしみじみ思ったのでした。
ちなみに私、街中で喧嘩して「もう帰る!」とキレて歩き始め数メートルでナンパされ、もちろん自分自身の力でお断りしたけれどそれを茫然と見ていた恋人にマジギレした経験と、もう駄目だろうな…と思っていた時期に一緒に観に行った芝居で、支え合っていた夫婦の妻が夫の夢についていけなくなって家を出る…みたいなシーンで号泣したのにわかってもらえなくてすうっと心のドアが閉まる音がした経験があり、サマーの心境の変化はあまり人ごとじゃなかった。そりゃズーイー・デシャネルと私じゃ月と石ころくらいの差はありますがね。