ザ・ヒットパレード〜ショウと私を愛した夫〜

深夜放送の初演版を観た。
正直、あまり期待していなかったのだけれど、これがすごく良かった。何よりも音楽がいい。さすが宮川彬良といった工夫に満ちたアレンジで、お父さんの曲が多いこともあるだろうけれど全般に昭和の音楽に対する愛が溢れている。懐メロ好きなわたしにとってはたまらない感じでした。特に「ヒットパレード」のオマージュ的に様々な歌謡曲を組み合わせてアレンジした音楽はもう!アレンジャーの勝利と言うほかない。
戸田さん・北村さん・カトちゃん・堀内さんの女優陣はどれもこれも芸達者で歌がうまくて素晴らしい。ていうか三谷作品のミューズ率高い。升さんの歌も良かった。あんなに綺麗に声が出るとは!RAG FAIRの使い勝手の良さも素晴らしくて、いわゆる個性的な歌唱で聴かせるタイプではないところが綺麗にはまっていたと思う。オープニングの引き込みやラジオの混戦なんて、これは彼らがRAG FAIRだからできるんだなあと思ったもの。
その中に紛れると原田泰造はやはり歌で一段テンションが落ちてしまうんだけど、この役は彼以外できないだろうなと思った。北村さん演じるユウコちゃんを「スマイルだよ、スマーイル!」と励ますところなんて白眉。だってぺたんと座りこんで泣きだした女の子の隣にしゃがんで「ねえ、だってこんな楽しいことないよ!もう明日爆弾が落ちてくる心配しなくていいんだ。みんな騒ぎたいんだよ。今日生きてるってことを喜びたいんだよ。」と朴訥と語る…なんて、うまけりゃできるってもんじゃない。このひとにこの声でこんな風に言われたら笑顔になっちゃうよ、ずるい俳優だなと思った。戸田さんは女子大生が無性にハマるのが最高だ。あの早口で啖呵をきるところなんて、若い女の子そのものといったテンション。
そしてザ・ピーナッツ。カトちゃんと堀内さんの声ってあまり似ていない(見た目も)なんだけど、これが演技プランでそっくりにしてきていて感動的だった。喋り方とか本当に似せてるんだもの。しかしザ・ピーナッツの歌ってどれだけ難しいのよ。このふたりをもってしても「ウナ・セラ・ディ東京」なんて明らかに難しそうで驚いた。
物語の終盤が甘いのは仕方ない。企画が主役夫妻の娘で音楽監督がゆかりの深い人の息子なんだもの。でも斬りこんで描くべき部分を斬り込みきれていない歯痒さは残る。あのへんのシーンで流れる「Anything goes」も「COME BACK GOOD DAYS」も素晴らしいんだけど、シンさんとミサちゃんを悪者にできない、影を描けないと辛い展開ではあった。人を楽しませることが好きで音楽が好きで、みんなを笑わせようといつも頑張っている人が財界人やらとお近づきになって強大な権力を持つワンマン社長に…っていうのは、まったくどこも矛盾していない。人間には多面性があるから矛盾はなくとも、それを物語として描くことは非常に難しい。
しかしまあ、音楽が素晴らしくてキャストが素晴らしくて、こうなっちゃったらもうAsk for anything more?なわけですよ。いや幸せな芝居でした。再演したらぜひ行きたいものだ。