ペンとか剣とか

「ザ・デザート」掲載の「安藤美姫物語‐I believe‐」を読んだです。いやー折原さんは本当に律義だなあ。まさか冒頭に献辞を持ってくるとは思わなかった。そして、まさかスケート始めてから今までの軌跡にするとも(笑)fromトリノtoバンクーバーの4年だけでもやりすぎなくらいエピソードのある選手だもの。
内容としては、本当に駆け足…というか、前半はトリノ後のDOI前まで。というわけで、まだモロゾフは出てこない。しかしジェンキンスコーチやら西田さんやら信夫先生・小塚母子やらが出てくる時点で、モロゾフが出てこないはずもない。
まあ…私は安藤美姫というひとの「毒も花もある」部分がすごく好きなのですが、実在かつ存命の人物を描くということで、毒や棘をことごとく抜き去った内容になってしまったのがちょっと残念でした。あの「気が強いのにメンタルが弱い」アンバランスさ、感性が強い子どもゆえの無邪気なインタビューの受け答えとか、あの「お嬢さん、敵作ってもしらないよ」という感じがとってもチャーミングだと思っているので、普通の女の子部分だけを強調されると物足りないというか。まあ、一番面白いのは現実の彼女だからな、仕方ないか。
しかし一方で、紙とペンをもって働く人としての折原みとには非常に尊敬を覚えたのです。というのも、高橋君がモロゾフんとこを離れてすぐのWFSモロゾフへのインタビューが酷かったことがあって。まあ、モロゾフがだいぶキレていて、それを田村女史がそのまま文章に起こしたものだったんだけど、事実が酷いとかモロゾフが酷いとか、勿論高橋君や織田君が酷いということでもなくて、ペンの暴力性をコントロールしなかった女史にショックを受けたんですよ。「ペンは剣よりも強し」っていう言葉は、何もジャーナリズム論だけの話じゃなくて、ペンも人の命を奪う凶器になり得るってことだと私は思っています。確かにモロゾフは日本のメディアに対してキレていて、そのキレ方は女史としては理不尽なものだったかもしれないけど、ああいう文章を「彼が言ったことをそのまま起こしただけです」という風にこちらに投げつけてほしくはなかった。人の言葉は必ずしも真実を伝えない、そんなことはジャーナリストならわかっていただろうに。
折原さんの漫画は、確かにきれいすぎる。意見の対立シーンに際しては絶対に顔を見せないし。でも、取材した人やフィギュアスケート関係者に対する誠実さとリスペクトが保たれていて、それはさすがドキュメント系漫画を描いてきた人だなと思ったのでした。後編も楽しみです。まあ「このエピ入れないのー」と思ったことは多々ありましたがね。荒川さんに向かって「しーちゃんガンバ!」て声をかけたやつとか。まあ尺の問題だな。
ちなみに私は彼女で1作品書くなら、世界選手権棄権〜DOIでボレロを演じるまでをやったら面白いんじゃないかと思ったことがあります。語り手は曽根さんかコバヒロあたりで。競技的には少し距離のある友達が、彼女の再生を近くて遠いところから見つめる…みたいな。単に私がボレロ好きってだけかもしれないけど。


さて、今日発売系でいうと、のだめ最終回と鋼のクライマックスもあったりするわけで。
鋼はなあー。この漫画のタイトルが少年誌連載の「鋼の錬金術師」な時点でホークアイは死なないと思うんだよね。青年誌連載の「焔の錬金術師」なら死ぬかもしれないけど。あのエンヴィー戦があった時点で大佐のドラマはひと段落だという持論はあれくらいのピンチじゃ揺るがない。っていうか死ぬならこの引きはないと思うんだよ。首をやられて引きってキンブリーでもあったけど、それとは明確に雰囲気違うし。バッカニアやフーの危機と明らかに表情も見せ方も違うんだ。
じゃあ扉を開くのか…というと…これも微妙かなあ。ヘタレすぎるよ。オリヴィエが決死の覚悟で上層部を従えてスロウス倒して、挙句バッカニアまで失ったのに、じゃあマスタングは何をしてましたか?って言ったら「私怨あるエンヴィーに我を失いかけて子どもと部下と敵に諭され、部下を殺されかけて扉を開いちゃいました☆」ってのは。そんなロイ・マスタングは嫌だ。別にマスタングのファンじゃないけど、やっぱり彼らにはあくまでエルリック兄弟の触媒となる素敵な大人でいてほしい。まあ都合よくスカーもいるのだし、彼が何かしらのアクションを起こす可能性のほうが高いと思っています。最終章入ってから特に活躍してないしね。
まあ一番泣けたのはリン側の動きだったりするのです。リンがフーとバッカニアを失ってボロボロ泣く姿はランファンが腕を失ったときには見せなかったもので、リンもこの旅を通じてだいぶ命に対してねちこくなってきた。その影響はグリードもだけどエドから受けた部分も多いんじゃないか。あと、ランファンの涙にも泣いた。顔がわからない状態での表情の使い方は相変わらずうまいのなんのって。でもって、アルはどうなってるんだ。そしてホーエンハイム、そのなりシュールすぎるだろ。
のだめはずいぶんあっさりしたグランドフィナーレだったな。あ、でもリュカの台詞はすごく良かった。私はやっぱりRuiとリュカのエピソード好きだ。普通の子ども時代を送らなかったけど、それは欠落じゃないんだよっていうテーマをのだめと並行して与えてくれたことで、元気づけられた「特殊な環境の子ども」もいると思うから。普通の家族がいて、普通の友達がいて…っていうのが強みの天才を描くにあたって、本当の強みは「普通さ」や「友達」ではなく「才能と向き合う覚悟」なんだという描き方は斬新だったと思います。のだめを救ったのは友達でも家族でも恋人でもなく音楽だった。それを気付かせたのは千秋かもしれないけど、それはまあ彼氏に華を持たせた感じということで。単行本出たら、フィギュアスケートと併せて「才能と自己」というテーマで読み返そうかしら。