四大陸と「南へ」を観てスケールとかメリハリについて考えた

四大陸選手権、終了。
特に女子FSの最終Gは素晴らしい試合だったと思います。荒川さんもすごかったと興奮気味でしたが、かなりアガった。何より、そのとき出来る限りのことをした選手が競い合って勝者が決まる、という試合にはなかなかお目にかかれないので、最終Gの6人のうち4人の選手がかなりいい出来(まあ、世界選手権に出るメンバーはこれから上げてくるでしょうが)だったのは、とても素晴らしかったと思う。
そして、いい出来で比較したときに、自分の好みっていうのが如実にわかって面白いなと思った。今回個人的に「おお!」となったのは、レイチェル・フラットのFSの終盤にものすごく盛り上がる感じで入るイナバウアーと、浅田真央が最後の最後に持ってきたスパイラル。レイチェル・フラットは緩急の人で、序盤からどっしどしストーリーを盛り込んでいって、ジャンプも終わって体力もきつくて、でももう少し見せ場が続くよ!というところにイナバウアーがぎゅーんと伸びるので、そのクライマックス感たるや半端ない。
浅田真央は(ここまで復活したからこそ言えることだけど)比較的ナチュラルかつプレーンな演技が持ち味の人で、わたしなんぞは華やかなものが好きなメリハリLOVERなので「もう一声!」とついつい思ってしまいがちだし、本人サイドもどうにかメリハリを持たせようとした結果が「鐘」や「仮面舞踏会」だったと思うのだけど、こういう優しく柔らかい、本人の個性に沿った曲で、こういう盛り上げ方もあるんだなーと思った。衣装がスタイルをカバーするように、プログラムも選手の個性をカバーし引き立たせるものであってほしい。
あ、真央嬢は今回のSPの衣装も結構良かったです。裾から覗く色味がきいてる。
ミライのSAYURIは結局のところ個性にあったプログラムに仕上がっていて衣装も素敵だったし、すごくいい集中力で滑っているのが観ていて気持ちよかった。ものにしかけたところで終わっちゃうのは残念なので、これ継続しないかなって思ってるんだけど、どうかしら。
安藤美姫の今季テーマは「スケール感」だと思うんだけど、それは継続することでどんどん積み上がってる気がする。何より、今まで演技中に「表情を作る」というと眉間に力の入ったものが多かったのだけど、普通の笑顔や目線を使った表情が増えてきていて、いい感じに肩の力が抜けているのかなと思った。

なお、わたしは四大陸の女子FSが行われているころ、池袋の東京芸術劇場にてNODA・MAPの「南へ」を観ていたのです。
野田秀樹の戯曲の根底には「罪とは何か」みたいなテーマが流れているのが多くて、今回もまた「罪とは何か」系だったのですが、ここ最近の「ザ・ダイバー」や「ザ・キャラクター」が1エピソードを中心に構築されていてわかりやすかったのに対し、「南へ」はどんどんあらすじやストーリーがわからなくなっていくタイプの難解な演劇で、「わからないわけじゃないんだけど誰にも説明できない」という作品だった。
そういう難しい芝居で、俳優たちは野田秀樹的な言葉遊びをものすごいテンションで叫ばなくてはならず、特に嘘を叫び続けなくてはいけない役どころの蒼井優は「うまいんだけど聞いてるこっちが辛いくらい煩い」ということになっていて、今までどの作品(映像)を観ても安定してうまい女優だっただけにびっくりした。それほど野田作品って難しいんだと再確認したというか。
あと、主演の妻夫木聡がものすごく舞台向きな俳優だとわかって、それにもいいびっくりだった。線が細い好青年というイメージの彼だけど、舞台で見るとけっこう「ちょうどいい」体格をしているし、何より声がよく通って無理なく出ているので、聞いているこっちが安心できる。演技全体としても、あれほどのことをやりながら基本的には肩に力が入っていないし、とても丁寧だった。失礼ながら「好青年のイメージで苦労してるタイプ」だと思っていたのだけど、そんなことは全然なくて、むしろ「うまいからこそ好青年を求められ続けていた」のかなーと思ったのでした。「悪人」や「南へ」の演技からまたスケールの大きい作品に恵まれて、大河リベンジを果たしてほしいものです。

そんなこんなで、芝居を観て、家に帰ってから四大陸を観ながら、メリハリって小手先の技術じゃなくて、自分のスケールの大きさを信じて肩の力を抜き、できることを丁寧にやっていくことに他ならないんじゃないかなと思いました。わたし自身もかくありたいものです。

普段ならもっとメリハリのある演技をする鈴木明子がいまいち乗り切れていなかったことや、スケールの大きい端正さが持ち味のミリアン・サムソンが怪我でイマイチな出来だったことは非常に残念です。特にワールドを控えているサムソンは、ちゃんと治して、今回も素敵だったファヌフと共にカナダの雄大さを見せつけてほしいものだ。

おわり。