彼のいた夏へ

こんしゅうのかんげき→「また逢おうと竜馬は言った」演劇集団キャラメルボックスサンシャイン劇場

わたしの好きなキャラメル芝居ベスト3を挙げると「スケッチブックボイジャー」「カレッジ・オブ・ザ・ウインド」そして「また逢おうと竜馬は言った」だと思います。特に「竜馬〜」は大好きな話で、うちには2000年版(南塚さん主演)もあり、何度も観ました。あのラストシーンは傑作だと思うし、だからこそ今回再演になると聞いて、喜び勇んで出掛けたわけです。
すごくエンターテインメントでした。
正直、穴の多い脚本ではあるんです。だいたい拳銃で「みね打ち」ってなんだよって話だし、広重の苗字はちょっと歴史をかじったひとなら「歌川」も「安藤」も知ってるはずだし。でも、そんなこと正直キャラメルボックスに求めても仕方がないのです(きっぱり)。綿密な伏線が見たいのなら映画を観ればいい、本を読めばいいってことで、これは「かっこわるい奴が必死でがんばるところが一番かっこいい」という、成井さんらしい美学が全部を貫いているという意味で、素晴らしい作品だと思います。
そして、その作品に対して命を吹き込む役者の汗と涙とまっすぐな佇まい。佐東さんは「風を継ぐ者」についでの主演でしたが、前のめりになりすぎず、抑えるべきところはちゃんと抑えた感じで、熱いながらも信頼できる岡本だったと思います。岡田さんの竜馬は親しみやすいあんちゃんといった感じで可愛かった。あと、石原さんの魅力に目覚めました。石原さんをとりわけ認識するようになったのはキャラメルではなく社中の「ファンタスマゴリア」に客演していたときなんですけど、あのときより輝いていました。とてもとてもかっこよかった。姿勢も綺麗だし。わたし個人的に「夏への扉」は彼主役でいってほしいなと思いました。三浦さんはしんちゃんのときは馬鹿可愛くて、土方は…土方もちろんかっこよかったけど、どっちかってーと近藤さんっぽい佇まいだよなあ。
岡内さんのケイコは、なんだかつついたら泣きだしそうで痛ましかったです。ぎゃんぎゃん煩くて可愛げがなくてヒステリック…という、史上最低クラスに性格のアレなヒロインですが、今回はカオリちゃんも美人だったので、ちやほやされて育った美人姉妹感がなんともリアルでした。あとは温井さんが最近とても良いと思います。

「志士は溝壑に在るを忘れず、勇士は其の元を喪うを忘れず」。この言葉を岡本が口にするシーンはやっぱり凄かったです。岡本の言葉は全然状況に合ってないんだけど、だからものすごく可笑しくて情けないんだけど、お客さんはみんな岡本がなんでこの言葉を口にするか知っている。本当に情けない彼がどれだけ、ケイコのために身体を張ったか知っている。だからこそ「しょうがねえな」と思って笑いながら、誰よりもかっこ悪くてかっこいい岡本を見ている。
まるで竜馬のように。
こういうのが「シーンの力」なんだなあと思いました。

あと「ケイコさんはお前が好きなんだ。世界中で何十億って男がいるのに、どういうわけかお前なんかが好きなんだ、俺じゃなくて」という台詞は、わかっていたのに胸をずしんと突かれてしまいました。
命がけで守った女が求めているのは俺じゃない。
それはとてもかっこ悪いけど、そんな女のために命がけで戦った岡本はやっぱりヒーローなのです。