ここにいないあなたと、いるあなたへ〜トリノワールド・男子感想〜

男子シングルFSはフジが気を利かせて生放送だったので、朝早くから起きて堪能しました。ふじてれびさん的には最高の結果だったんじゃないでしょうか。最終滑走で日本人選手が金メダル獲得、その直後からとれたてほやっほやのニュースで「おはようございます」なんて。だいたいスポーツの醍醐味は何が起こるのかわからないところにあって、どれだけ気合の入ったフラッフを作ろうと、ポエムなコメントをしようと「今ここで起きていること」には絶対に敵わないのです。だから、それを素直に認めて基本的に生中継でお伝えすればいいと思うよ。ゴールデンタイムに流したいのなら総集編を流せばいいじゃない。そこでならどれだけ真央ユナ対決煽ろうが構わないし。「日本人の活躍」が観たい層はそっちを見るだろうし、スポーツが好きな層とフィギュアスケートが好きな層は生中継を見る。それで棲み分け完了ってなもんですよ。
1.高橋大輔
優勝おめでとうございます。…というか、優勝候補になってからちょっと遠回りしちゃったね。しかし、そのすべてがトリノに続いていたと思うと感慨深いものがあります。自分を見失わずに一歩一歩進めたこと。それは競技をやっていく上ではとても難しいもので、実際「こんなに強い選手がこんなことに!」という自体が相次いでいるので、それを思うと郄橋大輔の1年の凄さがわかろうというもの。クワドフリップは惜しかったが、3-3がSPもFSも認定されるなら認定こようや!と思ったのは秘密。しかし、SPもFSもいい演技でとてもうれしかったです。正直、ここ何年間も「そのとき一番いい演技をした人が勝つ」というのは変わっていないのだけれど、その「一番いい演技」の中にクワドが入ったことを称えたいです。回転不足とはいえ。
2.パトリック・チャン
わたしは彼のSPが本当に好きで、しょっちゅう「『ムーランルージュ』のロクサーヌのシーンで、ユアン・マクレガーが歌っているパートをスケートにしたらああいう感じになる(からあのタンゴは正しい)」と言い張っているのですが、そのひとつの到達点を見ることができたなあと思いました。あれは、例えラテンが上手くてもステファン・ランビエールや郄橋大輔には演じられないタンゴだし、そういう意味で問答無用の当たり役だと思う。でも衣装は最初の白シャツのやつが一番良かったな。美しい夜の華に身の丈の合わない恋をして、嫉妬に狂うぼっちゃん的な感じが良いのですよ(長いよ)
フリーは2本目の3Aが決まったときに、2位以上は確定だなあと思ったので。ようやく少しだけ重圧から解放されてるのかな、そうだといいなと思いました。思えばバトルが引退してからというもの、カナダは2枠目が確定しない感じで、レイノルズはジャンプ凄いんだけど全然点が伸びないし、ソーヤーはプログラムいいんだけど3Aがアレでナニだし、チピアーさんはよくシングルアクセルかますし…。でも、とうとうレイノルズが目覚めたっぽいので、ふたりで仲良く補い合いながらソチを目指してほしいと思います。あのジャンプの高さとお尻だったらクワドいけそうな気もするんだけど。しかし「オペラ座の怪人」はよくわからんプロのままだったなー。スケーティング堪能するならもっといい曲あったと思うんだけど。SPとFSの選曲を見ていると、ローリーはパトリックのことを情熱的だと思ってるのかなーなんて妄想したくなったり。あらやだ。
3.ブライアン・ジュベール
強いブライアン様が帰って来た。これだけでもうわたしは感謝感激です。
ブライアンらしかったけど、ブライアンじゃないみたいだった。最後まで気を抜かず、コンビネーションも全部跳んだ。負けず嫌いな人の演技じゃなくて、今日勝ちたい人の演技だった。それが嬉しい。SPもFSもコーチがステップの前に大喜びしていて、このコーチは五輪後の辛い時期も彼にとっては絶対的に味方だったんだろうなと思ったら少し泣けました。トリノからの4年間、コーチとあまりよくない別れ方をしたケースもあったブライアンだから、そういう家族以外の頼れる誰か、自分で自分を好きじゃない時も自分を好きでいてくれる誰かがいたというのは喜ばしいことだ。
でもね、銅メダルで喜ぶのはブライアンらしくないぜ。次は一番上で不敵に笑った後涙ぐんで「メルシー、ママン」とでも言うがいいさ。
4.ミハル・ブレジナ
大躍進の若手・1人目。まさかここまでやるとは思ってもみませんでした。もう「トマシュもうかうかしていられないね!」とは言えないよね…(遠い目)。これで良い振付師をつけて嵌りプロをもらえると信じたい。いや「パリのアメリカ人」可愛いプロだとは思うんだけど、ちょっと可愛すぎるというか。音の取り方も一本調子というか。なんとなーく手拍子がわき起こらないまま終わってしまうノリノリ風なプロというか。来季がいろんな意味で楽しみな選手です。
5.ジェレミー・アボット
あの2Aのコケが…!もったいない!ミズスマシが水上をすーいすいと行くようなスケーティングを堪能しました。エキシ圏内おめでとうございます。地味だ地味だと言われつつ、いい感じに正統派で練りあがってきたとは思いますが、ライサもジョニーも次の試合はたぶんアメリカがどうとか、枠がどうとかとは違うところで出てくる選手になっちゃうと思うので(ていうか試合に出るかもまだわからないし)このキャラをもっと極めてオンリーワンなナンバーワンになってもらいたいところです。エキシは新しいやつかな?
6.アダム・リッポン
大躍進の若手・2人目。いやはや、素晴らしいデビュタント。今回はだいぶロシアっぽさが抜けてしまって、わたしはあのロシア王子風も混じったところが結構個性的で好きだったのだけど、この方向もなかなかだと思います。タノルッツもすっかり我が物にしてしまった。3Aも2本目は綺麗だったしねー。だんだん安定してきているし。あとは衣装がもっと素敵になれば。たまに「衣装だけでもモロゾフんとこに外注しませんこと?」と思ってしまうわたしであるよ。アダムもお尻的にクワドいけそうに見えなくもない。
7.サミュエル・コンテスティ
この人、なんとSPのSlStでレベル4を獲得しています。ステップのレベル4なんて、スケーティングがうまくてステップに定評のある人(高橋・ライサチェク・チャン・ベルネルとかそのへん)の特権だと思っていたのですが、SSで駄目だし喰らうことの多いコンテスティ、振付が奥さんのコンテスティがこの評価っていうのは、フィギュアスケートにとって地味に新しい局面なんじゃないだろうか。FSは非常に気合の入った演技で、イタリアのお客さんもみんな喜んでいて、根性で2Aからの三連続に持って行ったはいいけど腹からこけたところも含めて非常に素敵だったです。コンテスティも4年前、この場所に立ちたくて、でも立てなくて、だからイタリアに来たんだよね…と思ったら少し泣けました。かっこよかったよ。
8.ケヴィン・バン・デル・ペルン
冒頭の4-3-3に思わず叫びました。その後も細かいミスはちょこちょこあったものの、びしっとジャンプを決めまくって、基本的に大味だったり、ステップが苦手そうだったり、後半疲れたりしているところまで含めてバン・デル・ペルンここにあり!と全身で叫んでいるようで泣いた。僕はここにいると全身全霊で訴えかけているようだった。満身創痍で試合に出続けてきた彼がそこで成し遂げたことを喜びたい。「援助切るぞ」とまで言われ、何度も手術をし、五輪シーズンにコーチ変えたり色々あって、毎年変わる採点基準に苦しんだであろう彼を称えたい。ジェナもさぞかし惚れ直したことだろう。しかし喜び方が「うおおおおお!」じゃなくて「キャー!」みたいな感じでかわゆすだったんだぜ。
9.アドリアン・シュルタイス
今日一番「自分の表現したいものを表現できる身体能力って…いいよね」と思ったのがシュルタイスだったりする。去年までは「何かしたいのはわかるんだけど何がしたいのかわからない」としか言いようのなかったマイムやら細かい動きがぴしっと決まるようになってきていて、彼比で相当体力ついたんじゃないかと。まだ後半バテるとはいえ。ジャパニーズアイドル(なのか?)国分太一に「お客さんが彼の世界に酔っているような」とシュルタイスがコメントされる日が来るなんて。やー…本当に何が起こるかわからないもんだね。いきなり試合に導入し始めたクワドがこんな感じで、しかも五輪ではできなかった2本の3Aも決まって、次のシーズンはいきなりクワド2本とかクワドサルコウ!とか言い出してもあまり動じないかもしれない。驚くけど。アドリアンのコーチもとてもいい人そうで、あの人みるの結構楽しみです。毎回。「俺この曲やりたいんス!」とハウスを持ってくるアドリアンに、あの温厚そうでビートルズなんかが好きそうなコーチがどんな言葉をかけるのか知りたい。あ、でもコーチもスウェーデン人だもんな…実はあの選曲がコーチの趣味どんぴしゃだったりして…
10.小塚崇彦
SPは非常に良かったものの、FSで崩れてしまった。アクセル2本崩れたのはきついね。しかしまあ、もう一人の先輩はあんな感じだったので仕方ないというか。緊張が入ると途端に上半身の動きが硬くなるので、肩甲骨を上手に使えるようになるといいなと毎度思っています。ソチの星となるにはまだまだ修行が必要そうなので、そろそろ外の世界を検討してみるといいと思うよ。

デニス・テンはお疲れちゃんでしたね。この1年よく試合しました。あと忘れちゃいけないヴォロノフ。誰が彼を責められようか。直前で決まった出場、しかも後輩はアクシデントで棄権。そんな中でセルゲイ・ヴォロノフ、よく闘いましたッ!(←野際陽子の声で)演技が終わった後の表情を見て、あの茶色い髪をわしゃわしゃしてはげましたくなったのはわたしだけではないはずだ。
そのほかの選手はBS待ち、あるいはあなたのちゅーぶ頼りになりそうですが、ケヴィン・レイノルズがTESだけなら高橋君に次いで2位だったり、ハビエル・フェルナンデスがCiStでレベル4を獲得していたり、色々と面白いことがあったみたいです。レイノルズのTESは「ようやく…!」という気がするし、安定して頑張ればPCSも今よりは出てくれるはず。ハビエルの演技はフィギュアスケート新採点と面白いプログラムは両立するんだよ!ということを証明しているようで大好きです。外野は色々言うだろうけれど、振付師が、コーチが、ジャッジが、何より選手が新採点の可能性を信じてトライしてくる以上、わたしは彼らを全力で支持しようと思うのです。
そして今日ここにいなかった人。一番に思い浮かぶのはやはり織田信成。一体彼に何があったのか、つい考えてしまいます。何か人には言えないようなことがあったのかもしれないけれど、それでもそれは既に起きてしまったのだから、肉でも食ってぶつかるしかないんだろうな。帰国後は関大のイベントやSOIがあるし、まだ情報出ていないとはいえそれなりにテレビ出演の予定なんかも入っている可能性があって、そういう場があったら彼はたぶんにへっと笑っているだろうけれど、にへっと笑った先でふさぎこむのではなく、きちんと色々整理して次のシーズンを「強い織田」としてスタートしてほしいなあ。織田君は感情だだ漏れに見えて、複雑な気持ちの時はにへっと笑ってしまう人のような気がするから、そういう彼をぶん殴ってでも溜めこませない人が傍にいてくれるといいなあ。というわけだから、とりあえず任せたモロゾフ…と言いたいところなのだけど、モロ先生はあまり彼のそういうところわかってないかもなあ。日本人の一番わかりづらい部分だし。
あと、うかうかしていられないどころじゃなくなったトマシュ・ベルネルさんにもきちっと色々決着つけて帰ってきてほしいです。リメンバー・勇名トラ(イェテボリのことじゃないよ)。エヴァンさんやジョニーさんやプルさんが今回何を思ったかはわからないけど、現役続行が確定したら喜んじゃうもんね。アルバン様、ポンちゃんあたりは何を思ったかなあ。町田君、羽生君、無良君、ダイスはどう?ムロズさんやキャリエールは?ソーヤーとベルントソン先輩は現役続行する気になったかね?わたしは待ってるんだぜ。

要はここにいないあなたが死ぬほど好きで、ここで闘っているあなたも同じくらい好きよっていうだけのお話。女子もがんば。