さよならトリノ

女子シングルの試合、素晴らしかったです。何度も泣いてどうしようかと思った。こんな風に試合が終わるとは思ってもいなかったので、とても幸せです。しばらくはゆがんだやつらの手垢のついた批評でこの気持ちを穢したりはしたくない。
とにかく、安藤美姫トリノ五輪がこれで終わったということです。そりゃメダルは獲って欲しかったさ!それだって不可能じゃなかったんだから!でも結果は結果。だいたい、この五輪の間じゅう、彼女ずっと調子イマイチだったし。Fが不安定なうえにLzの精度も落ちていたのだから、仕方ない。むしろ今季ずっと良くなかったくらいだ。
それでも彼女はこの五輪のあいだじゅう、ずっと美しかったです。六分間練習の前、笑顔すら浮かべていたときには正直参りました。このひとにはもうメダルがどうのとか、順位がどうのとか、そういうことはないんだなと思った。目指して来たものは勿論メダルだろうけれど、それが叶わないからといって、彼女の素晴らしさが揺らぐわけではない。これでようやくトリノの呪縛から解放されて、自分のために、誰かを見返すとかスケーターとしての自分を証明するとか、そういうことじゃなくてアスリートとして、アーティストとしての時代が始まるわけです。それが競技として求められているか否かは別として。だって彼女、まだ22歳だし。4年後は26歳だし。
「レクイエム」が怒りや理不尽といった重たい情念ではなくなってしまっていたので、次のシーズンはどんな風になるのか見当もつきません。とりあえず、わたしが彼女から目を離せなかったのは「表現することの本質」の風変わりさを体現しているひとだからで、そのひとがわたしの予測の斜め上をずっと歩き続けてくれたこと、今日また新たなステージにのぼったすがたを見せてくれたことに感謝したいです。
そして「表現することの本質」の風変わりさをまた、今回の銀メダリストも手に入れかけているので、彼女のソチへの4年間は見物だわ、と思うのでした。どんなふうにしていくんだろう。ユナ・キムの完成型もとりあえずは見れたけど、国家の重さからひとまず解放された彼女が向かう方向もまだ見ていたいと思う。だからしばらく競技やろうぜ。
あと、忘れちゃいけないジョアニー・ロシェット。この五輪は彼女のものでした。わたしにとっては。渾身のタンゴ、終わった瞬間の泣き顔、強い気持ちで乗り切ったFS、終わった瞬間空に捧げた投げキッス…思い出すだけで涙が止まらない。心から敬意と愛を表します。ありがとう、ありがとう。