これもまたひとりの人魚姫〜「空気人形」〜

「空気人形」をようやく観た@目黒シネマ

空気人形 豪華版 (初回限定生産) [DVD]

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皆が名作と言っている理由がわかった。万人受けするタイプの映画とは違うけれど、是枝監督の深くえぐるような視点がふんだんに発揮されたいい映画だった。観終わった後でしばらく茫然としてしまった。
是枝監督の撮るペ・ドゥナが本当にきれいで惚れ惚れとした。なのにセックスシーンの撮り方がやたらときっちりしているから妙に生々しい身体性を伴っていてすごいなあと思った。「綺麗」とか「激しい」とか「エロティック」じゃなくて、とにかくきっちりしている。ロマンチックなのはレンタルビデオ店で空気人形の正体がばれるシーンくらいで。他のシーンの生々しさが本当に(いい意味で)気持ち悪くて、お風呂に入りながら思いだして凹んだ。ジュンイチの部屋でのシーンも、レンタルビデオ店の再現になるのかと思ったら綺麗だったのは最初くらいで、後は妙に辛いシーンだった。空気人形のあの後の行動からすれば、彼女にとってあれは幸せな交歓だったはずなんだけど。なんだろう…あの前に「なんだってしてあげるよ」っていう台詞があったせいかな。あの瞬間を私も望んでいたはずなのに吐き気がした。その直後のシーンと合わせて指の隙間から見る感じ。あと、洋服が上半身はふわふわでガーリィなのにいつもどきっとするくらいミニスカートで、その取り合わせのえげつなさもすごいと思った。
ちょこちょこ出てくる女の子がアリエルの話をしていたり、空気人形の夢のシーンで水の中に沈むシーンが出てきたり、これは「人魚姫」オマージュのひとつの形態なんだなあ。わたしずっと「リトルマーメイド」が好きになれなくて、それはあの映画が法則をばーんとぶち破ったハッピーエンドだからなんだけど、空気人形が最後に見た夢が本当のものになるのなら、どんな風に無理やりな出来事が起ころうとも私は彼女を祝福したろう。グランマンマーレが出てこようとも、呪いがえしを実行しようとも構わない。あの夢のあまりの幸福さに、ひたすら泣いた。
そういえばアンデルセンの人魚姫、泡になって消えてしまった後に神様の情けに救われて空気の娘になるんだよね。そしていろんな国へ旅して行って百年たてば人間になれる。その百年が幸せな子どもに出会えば1年減って、泣いている子どもに会えば1年増えるっていう。すべての人がふんわりつながるような最後のシーンにはそんなことを思ったのだった。
「ココロを持つ/持たない」理論が出てくる作品のスタンダードらしい「キレイ」という言葉にこだわった脚本も良かったです。
だがしかし、観終わったあとでかなり凹むので、しばらくは観返さずにいつか観返すリストに入れておこう。この中には「ミリオンダラー・ベイビー」も入っている。

リトル・マーメイド スペシャル・エディション [DVD]

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人魚姫

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