哀愁のヴェローナ、その後

今日の観劇「ロミオとジュリエット」少年社中@あうるすぽっと
http://www.shachu.com/rj/



世間のフィギュアスケートファンの皆様がFOIの高橋大輔復帰に沸いている中、私はひっそりと池袋にて少年社中を観劇。いやー、しかし年々チケット取りづらくなるね…社中も。それと同時に年々泣けなくなるのはどうして。私の心の問題なのか。そうだろうなあ。
題材はかの有名なウィリアム・シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」なのですが、今回の大きな相違点は以下のふたつ。


1.ジュリエットが女として育てられた男である
2.ヴェローナ支配下に置くべくヴェネチアが画策している


相違点その1は、なかなか厳しかった。ジュリエットが演出や役作り的に迷走している気がした。役者も背が高くて細身で綺麗なんだけど、しゃべり方がいかにもオカマ喋りになってしまうというか。それならそれでオカマのほうがよかったし、いわば「女装の麗人」ならば行動を逆に男っぽくしてみるとか、巧いやり方はあったんでねえかと。追放命令後、試しに寝てみないかと誘って「やっぱりやめよう、俺たちは男同士だ」となるところでの感情が見えづらいんだよなあ。ロミオ→ジュリエットはあくまで性愛抜きだとわかったんだけど、ジュリエット→ロミオは性愛も込みだったのか、違うのか。そこを明示してもらわないと、もやもやとした気持ち悪さだけが残るんだ。
相違点その2はすごく良い。ヴェネチアヴェローナを狙っている→本来なら争っている場合じゃない→ヴェローナのためにも領内紛争をやめよう!という構図にまったく無理がない。あくまで自己中心的だったロミオとジュリエットの恋が、大衆のためヴェローナのためとなることで恋愛の崇高さは増すし、その崇高な恋がつまらない諍いのために破滅を招くラストシーンの皮肉さも増した。っていうか、これがすごく良い解釈だから「ジュリエットが男」設定も要らなかったんじゃないかなあ。ラスト、毒から蘇ったジュリエットがサーベル片手にヴェネチア兵を倒しに行くけれど、あれだって女性でよかったような気がする。
ジュリエットを男にしなくて良かったと思う理由のひとつに、この公演の女優がすごく良かったというのがある。看板女優・大竹さんの乳母はとにかく台詞がよどみなくて、シェイクスピアの地の文を語るのが劇団員では一番だった(客演含むとやはり児島さん@劇団ショーマに軍配)。キャピュレット夫人(キャピュレット家は女系相続制なので家長であり、原作のキャピュレット氏の役割も大いに担う)もよかった。ジュリエットに「結婚が嫌なら乞食にでもおなり!」「おまえは可愛い女の子として生きるんだよ!」と詰め寄るシーンは本当に怖かった。次は杉山さんヒロインの芝居がぜひ観たいと思ったくらいだ。原作は名前しか出てこないためほぼオリジナルの役割がついたロザライン@加藤さんは、彼女独特の訥々とした台詞回しに磨きがかかっていて、そのうえ女らしさが急増していた。3人とも可愛い少女ができる感じじゃないのだけれど、この人たちヒロインでこれから話を作れる毛利さんは果報者だ。


あと、ロミジュリの脚本を思ったよりも使い込んでいて、それが台詞回しの巧拙を浮き彫りにしていた。シェイクスピア演劇って怖いなあ。ちょうど今日、恩田陸の「チョコレートコスモス」を読んだからなおさらそう思った。古くから名作として語り継がれる戯曲の台詞には歴史の重みがあるのだというやつ。軽々しく口にすることが赦されないという感じを受けた。特にヒロインのジュリエットと、この話の最終的な語り部となるベンヴォーリオの台詞回しがアレだったのでそう思ったのかもしれない。惜しかったのはマキューシオ。動きとか殺陣とかキャラクターの解釈は全部良かったのに滑舌が…。とにかくくだらないことを全速力でしゃべり続けるマキューシオのキャラクターは把握しているのに何を言っているのかよくわからない…というのが!いやあ廿浦さん自体はとてもよかったのですよ。

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家に縛られたふたりの若者がいる。一人は父の言いなりになって殺したくもない人を殺し、一人は母の言いなりになって望まない結婚を強いられている。ひょんなことから知り合った敵同士のふたりは、自分の運命を選び取るために「結婚」をかわすが、その背後にはヴェネチアの手が迫ってきていた…!

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この粗筋だけならすっきりするんですよ。そこにシェイクスピアの長いポエム(違)が入るんだからさあ。しかも「ジュリエットは男でそれを知っているのは○○と○○」みたいな追加設定とか入るんだからさあ。やっぱしジュリエットやらせるのは女優で…よかったんじゃないか…あるいは母親の支配におびえる演技をもっと全編に渡ってやるべきだったんじゃ。せめて、アルケミストで客演した、ルドビコの林さんくらいのレベルの人に来てほしかったんだよなあ…。


あと、どうせ少年社中でやるなら、マクベスとかハムレットが観たい。あるいは井俣さん主演でリチャード三世とか。今回のモンタギューの井俣さんの渋さを観て、そろそろ本気で渋い主役を彼がやっても良い気がした。毛利さんの持ち味はやっぱ悲劇だし。
さて、次回公演は10月末のファンタスマゴリア…って近!
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宣伝美術なんかが、大好きな公演「リドル」に似ていて良い感じ。