リミット〜刑事の現場2〜最終回

愛と憎しみは表裏一体であり、善悪は時代や状況によってその価値を変える。たとえば飢えている人がいて、その人に何かしらのアクションを起こせばそれが人間的にダメな奴であってもその人にとっては善人だし、人間的に素晴らしくても何もしなければいなかったのと同様だ。アクションを起こした誰かに恨みを持つものはその人を「偽善者」と呼ぶけれど、しない善よりする偽善に人は救われて生きていたりする。
「愛と憎しみはどちらが強いか」という、シェイクスピアどころかギリシャ悲劇から変わらないテーマを描き続けたNHKのドラマ「リミット」。落とし所は最初から決まっていたのだろうけれど、主演の森山未來武田鉄矢の熱演のおかげで、甘いだけじゃ伝わらないテーマがずんと胸に来た。「復讐は人を救わない」「憎しみより愛のほうが強いはず」「愛をあきらめないこと」。ありきたりだけれど、私たちはそれを信じたいと願って生きているような気がするよ。それは願いであり祈りだけれど、祈る力はとてもとても強いものだ。
マリア@加藤あいの「赦し」のシーンはもう少し頑張ってほしかった。まあ、彼女に「マリア」という名前が与えられ、夫となる人間と心を本当に通わせる前に妊娠し、青のショールをまとった肖像画が存在する時点で彼女の役割は聖母様だったのだけれど。それでも、あの「あなたを赦します」は確固たる美しさを持っていってほしかったんだ。
人は様々な側面を持ち、それを乱反射させながら生きているのだと思う。何も知らない赤ん坊の、つるりとした面も素敵でまぶしいけれど、人を愛することや憎むこと、妬み僻み嫉み、愛されたいと泣くことや、愛した人をもう愛していないのだと気付き愕然とすることや、いくつもの夜や朝、別れや出会い、一人の人間が「わたくし」として立つことのすべてから眼をそむけてはいけないと改めて感じ入るものがありました。
…しかしまあ、このテーマはアンチテーゼなのか、某大河の。愛なんてよわっちい綺麗事で、人間はもう駄目かもしれなくて、それでも俺は愛することを諦めない、それで出来ることもあると証明してみせる、あんたがそれを見届けろよと叫ぶ森山未來の青臭くてまっすぐなことと言ったら!まさに「世界の中心で愛を叫ぶ」…て昔の話は持ち出すな。しかしまあ、よっぽどどっかの大河の愛より…おっと不用意なことは言わない言わない(笑)
こう、1〜4話の流麗な斬り合いだったのに比べて最終話は殴り合いみたいな話だったけど、ここまでハードボイルドである一方非常にウェットな人間愛を描いているドラマが観れて幸せでした。今度はミュージカルで森山の雄姿を再び拝みたいです!やっぱね、舞台の人だし!