本当は怖いジュリエット、そしてマリア

ミュージカル好きを公言しているわりに、どうしても観そびれている作品とかは色々あるわけで。特にサントラを聞いていたりあらすじを知っていたりするとどうも食指が伸びないものってあるんだよね。さて、今日は体調不良もあり、そのひとつを潰すべく家でDVD観てました。

鈴木明子選手が今季使うことでもおなじみ、ウエストサイド物語。

ロミオとジュリエット」が名門のふたりだったのに対して、こちらのふたりはプエルトリカン移民とプアホワイトor移民二世ということで背負うものが大分違っている。その一方で、基本的に自分のことしか考えていない嫌な部分というのはそのままなので悲劇色が強まっていて面白かったです。アニタが嘘を吐くシーンとかさ、絶対シェイクスピアではやらないもの。
前々から思っていたのだけれど、ジュリエットとロミオだとジュリエットのほうが怖くて強い。年下で未熟なのに怖い。マリアにしても、兄を殺されて人殺しと罵った直後にトニーと寝るとか、警官に目線を合わせてはっきりと嘘を吐くシーンとか、すごいよなあ。シェイクスピア作品だと大抵嘘やはったりが上手なのは女のほうですが。
原作だとその怖さがもう少しはっきり書かれている…気がする。以下引用。従兄弟のティボルトが殺されてロミオが追放になると知ったシーン。
「わたしの夫は生き残った、ティボルトに殺されたかもしれないのに。そしてティボルトが死んだのだわ。わたくしの夫を殺したかもしれないのに。みんな嬉しいことばかり。ではなぜ泣くの?(中略)追放、その一言で一万人のティボルトが殺されたのと同じ。」
怖い。怖いよジュリエット。しかもこの子「恋とかわかんない」と言ってからたった2日ばかりで平気で恋のために嘘を吐くんだから、たまったもんじゃない。一方ロミオは別の女の子に会うために忍び込んだダンスパーティーでジュリエットに一目ぼれという体たらく。なにやってるんだ。
ロミジュリって要は、恋した僧のために火事を起こす「八百屋お七」、恋した僧に裏切られて龍になる「道成寺」、恋した男の首をねだる「サロメ」、恋人に裏切られて踊り殺そうとする「ジゼル」と源は一緒なんじゃないか。処女であり、純真で女の欲望とは無縁そうに見えて心の奥には黒い穴がぽっかりあいているタイプの。もしロミオとジュリエットの駆け落ちが成功していたとしても、ジュリエットの真っ直ぐな熱さにロミオは耐えきれないんじゃないかなあと読み返すたびに思う。
今季ジュリエットを演じるサラ・マイヤーさんとキミー・マイズナーさん、そしてマリアを演じる鈴木明子さんには、恋の美しさやひたむきさの裏側に怖さを少々ブレンドして頂ければと思います。特に、キミー・マイズナーさんはあのルックスで「あの子すげえひたむきで可愛いんだけどさ、そういうのってちょっとひやっとするよね」と思わせるようなジュリエットを期待したい!