クリスティーヌと怪人大量生産中

スカーレット・オハラは美人ではなかったが、一度魅入られると、男はほとんど誰もそれに気付かなかった」
というのが、名作「風と共に去りぬ」の書きだし文ですが、今一番銀盤でその言葉が似合うのはメリル・デーヴィスなんじゃなかろうか。
「メリル・デーヴィスは美人ではなかったが、一度魅入られると、観客はほとんど誰もそれに気付かなかった。」…うむ、まさに。ファニーフェイスでスタイルもあまり良くないけれど、ひとたび滑りだすと絶世の美女に見えてくるメリル。そんな彼女と暴走王子チャーリー・ホワイト君が今季演じるのは「オペラ座の怪人」だそうです。


ええっ…メリルのクリスティーヌはわかるけど、チャーリーのファントム…うーん…
そう思った方々は意外と多いんじゃなかろうか。


そんな「うーん」と思った人間の一人である私ですが、やっぱり演劇好きとしてファントムは欠かせないテーマですし、楽しみでないわけはない。特にメリルのクリスティーヌは楽しみなのだし。
そこで提唱したい。チャーリーにラウルをキャスティングしてはどうだろうかと。しかし一方で、ラウルとクリスティーヌにしちゃうと怖い感じのメインテーマが使いづらいので「ラウル=ファントム」という解釈で演じてはどうかと。


考えてみると、ラウルとファントムの主張ってほぼ一緒なんですよね。
「君を愛している。君には僕が持っているすべてを与えて汚いものから守ってあげる。だから悪い奴は僕が追い払って、幸せにしてあげるよ。大丈夫、僕は君がほしいものを君以上に知っているんだ」というタイプ。
ファントムにとって「君がほしいもの」は音楽。ファントムとクリスティーヌは音楽という共通言語でつながっている。一方、ラウルにとって「君がほしいもの」は愛であり人並みの幸せや家族。身分的な裕福さ。幼いころに父を亡くしたクリスティーヌにとっては、ラウルの愛情はもとより家族や身分も嬉しいギフトだったんじゃないかと思う。
実はラウルとクリスティーヌって身分違いギリギリの玉の輿ですよね。オペラ座の新星プリマドンナとはいえ所詮はコーラスガールのクリスティーヌが貴族の家にお嫁にゆくわけだから。


閑話休題。一方でファントムもラウルもクリスティーヌがほしいものをすべてはあげられない。ファントムは闇の住人にして音楽の従者。だから彼を選べば人並みの幸せはついてこない。ラウルは貴族なので、貴族の奥方様に収まってしまえばクリスティーヌは歌姫を続けられない。お人形、ヴァイオリン、エンジェル・オブ・ミュージックの歌を愛していた頃には戻れない。音楽を選ぶにはファントムは異形すぎるし、愛を選ぶにはラウルは身分が高すぎる。
私の妄想にすぎないけれど、クリスティーヌがラウルの提案にずっと及び腰で、ファントムに魅入られる自分を止められないのも、パパのお墓の前で「あの頃に戻れたら」と回想するのも、ファントムの魅力もあるけれど、ラウルがクリスティーヌのことをあまりわかってないせいもあるんじゃないだろうか。彼は相当自分勝手な男だ。


そんなわけで、ラウルとファントムは表裏一体の役なので、チャーリーにはラウルを演じてもらい、最後にラウルこそファントムの化身だった!という感じでメリルを捉えてフィニッシュしてもらえればと思います。


ちなみに「オペラ座の怪人」のオリジナルキャストはサラ・ブライトマン。ロイド=ウェーバーに見出された彼女が抜擢され、一躍スターダムに躍り出たのはあまりにも有名な話ですが、それって明らかに自分をファントムに重ねてるよね…ロイド=ウェーバー…それってちょっとキモryという話を友達(男)にしたら「えーっ!素敵じゃん!愛って感じ!」と言われ、自分の女子力を疑いたくなった二十歳のころ。
そして、そんなエロい生い立ちのミュージカルなのにあまりエロくなかった映画版。基本的にエロを感じない四季版。


でもって、こんなにエロかったのかあぁぁ!と瞠目したオリジナル・キャストのオペラ座はコレ。

何がエロいかって、ブライトマンのための音楽なので高音に無理がない。だからうっとり歌える。うっとり歌っているから、クリスティーヌが本当にファントムに心奪われているのがわかる。
ちなみにサラは後年ロイド=ウェーバーと結婚、のちに離婚しますが、結婚時はどこへいっても夫の名前が付きまとうのが辛かったらしい。それから何年、ひとりで逞しく生きている彼女に、実は今一番ファントムをやってほしかったりする。すごくはまりそうです。