走り続けてたと迅助は言った

サンシャイン劇場にて「風を継ぐ者」を観劇。
当日・キャンセル待ち狙いで観に行ったのですが、思いのほか盛況で。キャンセル6番目ならさすがに1階席が手に入るだろうと思っていたらあえなく前の人で1階席が終わり2階へ。以前、2階席の公演が臨場感がなくて酷かった覚えがあったのでそのまま帰って出直そうかとも思ったのですが、池袋くんだりまで来たのにそのまま帰るのも癪なので納得して観てきました。が。
すごく良かったです。もしかしたら今までのキャラメルボックスのステージの中で一番集中して観れたかもしれない。これまで1番は「スケッチブック・ボイジャー」でしたが、それとはるくらい感動しました。
2階で観るメリットは「殺陣の構成がばっちり見える」「役者の技量がはっきりわかる」「照明が見やすい」ということでした。役者の技量・特に発声はこれでもかというほどよくわかった。抜けてるなと思ったのは文学座の粟野さん、さつきさん、大内さん、西川さん、ややあって畑中さんといった感じ。小多田さん・佐東さん・阿部さんも悪くなかった。思いのほか通らない声をしていたのは三浦さん。まあ、佇まいなんかは悪くなかったのだけど。
何よりもまず、大内厚雄の巧さにびっくりしました。私がキャラメルボックスを観劇し始めたころ・それこそ「嵐になるまで待って」の2002版の頃なんかはもっと声が通らなかったと思う。それが凛とひびく大きな声で、佇まいの自然さや癖のなさ、殺陣の巧さ。この芝居の屋台骨は紛れもなく大内さん演じる小金井兵庫にあった。もともといい男だとは思っていたけれど、それが増量中な感じでした。そしてやっぱりさつきさんと西川さんはうまいねえ。安心して観れます。あと粟野さん。文学座みたいな基礎をきちんとやる劇団はやっぱ違うねえ。長州弁のはまり具合といったら、ネイティブのようだった。
佐東さんは初主演ということですが、とてもよかったと思います。このお芝居(今井主演系)は、主人公の頑張りに役者の頑張りが重なってお客が「頑張れ!」となれば勝ちなので、そういう意味で勝ちだった。迅助がすごく好きになりました。単独での弱さは否めないけれど、その分は小金井の「あいつのことを書きたい」という思いがじゅうぶんにカバーしている。ナイスコンビだったと言えるんじゃなかろうか。

前評判で薄味になったと言われ心配していた「沖田とつぐみの恋」ですが、薄味と言うか年齢低めになったと思いました。さつきさんが演じていたつぐみは迅助の姉のような、矜持のある職業婦人といった存在だったけれど、實川さんの場合は妹のような、まだまだ世間知らずの娘さんといった感じ。「患者の半分は私が診ている」というのも、さつきさんがさらっと当然のように口にしたのに対して、實川さんはとても誇らしげに言っていた。しっとり切なかった菅野・さつき版に比べると畑中・實川版はきゅんきゅん初恋っぽいけれど、それもありだと思いました。つぐみの「どうしてあの人はそうなの!?」っていう気持ちがなんとも少女漫画っぽい。菅野・さつき版が「沖田とつぐみの一瞬にして生涯の愛」だとしたら、畑中・實川版は「沖田とつぐみの淡雪のような初恋」という違いで、それがあの奥ゆかしい切なさを好きな人には物足りなく感じたのかも。もしこれが初演だったら、薄味とは言われなかった風ではある。ただ、つぐみの恋を少女漫画的初恋にするのなら、沖田の手紙を読んだ後ぎゅっと抱きしめるくらいのことをしてもよかったんじゃなかろうか。
さつきさんのつぐみは、沖田との恋を生涯の宝物にして医者として独りで生きていきそうだった。けれど實川さんのつぐみは、きっと良縁に恵まれて結婚して、後々沖田のことをふいっと思いだして「あの人はどうしてるのだろうか」と懐かしくなるような感じだった。それが好きかどうかは個人次第なんだろうなあ。
そして特筆すべきはやっぱり殺陣。この芝居は本当に殺陣がかっこいい。沖田の、身長が低いゆえに飛び技をよく使うバネのある殺陣、小金井の流れるような美しい殺陣、土方の少し泥臭い、刀を鈍器のように扱うタイプの殺陣。どれも見どころだし、役のキャラクターが出ていてとてもいいと思いました。特に眼福だったのはやっぱり大立ち回りで土方が駆け付けるまでのシーン。もうね、沖田は本当に飛ぶんですよ。ぱっと飛んで振り向いて迅助をかばって斬りかかり、すかさず自分の体勢を立て直して相手に付け入らせない。私、こんなに畑中さんの殺陣を好きだと思ったの始めてかも知れない。すごくかっこよかった。あと願わくば小金井の殺陣はもっと観ていたかった…。
生であのZABADAKの「POLAND」使った殺陣が見れてよかったです。眼福すぎる。ただ、前半は曲の入りでめちゃくちゃ音量上げて台詞で下げるのがあからさますぎたような気が。ZABADAKは音量大きいから難しいのわかるけど、もう少しこう…!

つぐみが沖田を叱るシーン、ふたりが別れるシーン、迅助と小金井が再び出会い、小金井が泣きだしそうな顔で「おーい」と呼ぶシーン、いろんなシーンでじんと来ました。「生きててよかったな」「迅助さんですか、はあ、本当に」「馬鹿。おれたちみんなだよ!」そんなベタな台詞が心に残るってすごく気持ちのいいことだ。特にその直前、あれだけ近藤・土方両先生より先に死にたいと願っていた沖田が、近藤先生より先に武士として死ねなかったことが語られる後だから余計に。
2階席でもすごく集中して観れて大満足でした。それってつまりは前回2階で観た「裏切り御免」が以下略。そして大内厚雄に惚れ直した回が丁度彼の通算1500ステージ目だったということで、大内さん栞をもらいました。これを私に使えというのか。裏に劇中の小ネタで使われた「ひょうごくんしおり」が書いてあるのはすごく嬉しいですが…。
そして気付いたらZABADAK×キャラメルボックスのサントラを購入していました。うちには「風を継ぐ者2001」のサントラ(私所蔵)、ZABADAKの2枚組ベスト&iKON(弟所蔵)があるのになんたる不覚…半分以上持ってる曲じゃないか…っ。まあ、こうやって嵌められるのもたまにはいいものです。それだけ面白かったということなのだから。さすがにつぐみ手拭(かまわぬとのコラボ)は購入をよしましたが、本当に可愛かったんだよあの手拭。

ええと、以下ちょっとぐちっと。




ある程度覚悟はしていたのですが、やっぱ岡内さんに美祢はミスマッチだったよorzそもそも美祢はコンスタンツェ現象*1を起こしている役なのですが、他人を陥れる冷酷さと夫への愛情、女として同じ女に刃を向ける葛藤、そして憎み騙そうとしつつも新撰組に恩義を感じる優しさ、それをすべて微妙な塩梅で演じられることが必要な役なので、岡内さんのようなちょっと大味なひとには荷が重いんじゃないだろうかと。そして何より、彼女に時代劇はちょっくら合わない気もする。「まつさをな」の女中頭は飛び道具だったから良かったようなものの。スタイルのいい美人なのだけど、とにかく所作がよろしくない。立ち姿、お辞儀、剣の使い方etc.だって名門の婦女が医者の出戻り妹よりも所作がなってないってあり得ないだろ。
2001のミラノさんの美祢も不満でしたが、今回も不満だ。美祢にこそ客演で文学座あたりから、声が通ってアンビバレントな感情表現が得意で所作が綺麗でそこそこ美人な女優さんを連れてくればよかったじゃないか。所作や立ち姿という意味では、まだ温井さんのほうが合っていたと思う。「カレッジ・オブ・ザ・ウィンド」では良かったと思うし、悪い女優さんじゃないのはわかってるよ。でも、美祢は違う。屈強な男3人の中でもきりりと立って見劣りのしない、女傑にして繊細な佳人である美祢を感じられなくて残念だった。


あと書き忘れ、三鷹太夫のウザ可愛さはありだ。なんか愛おしかったよ。

*1:東宝ミュージカル「モーツァルト!」のコンスタンツェ役に代表される、はまればすごく目立つおいしい役のはずなのに、演じる役者演じる役者どのひとにも妙な物足りなさを感じる現象。「この役にはこの人!」と言えるようなタイプの役なのに、誰もその「この人」の部分が当てはまらず、みんなこの役がはまる人を待ち望む。しかし主演ではないので、結果上手な女優があまり回って来ずにお茶を濁されるようなタイプの役でもある。