NHK杯覚書その1 男子シングル

忘れないうちに書いてしまおうNHK杯。しかし今日は一日すっげー腰が痛かった。やっぱり終日立ち見が効いたな。昨日は踵、今日は腰が痛くて、怪我とか抱えてあんな冷えたあぶなっかしいところで戦うスケーターの皆様に頭を下げたい気分になりました。それではすごく面白かった男子から。順不同。

■クリストファー・ベルントソン(総合12位)
スウェーデン国旗はためきすぎ。笑。下位グループとは思えないファンの多さ。SPはライトセーバー持たせたい感じで、良いなあと思いました。FSはねえ。6分間練習中で疲れすぎた?って感じ。こうSPはわかりやすい小芝居・FSは難易度が高い分きっちり決めないと厳しい小芝居っていう路線が独自すぎます。ベルントソンさんはベルントソンさんの進むべき道を歩き、彼なりのゴールを目指していただければ。お客さんを幸せにしちゃって!

■ヴォーン・チピアー(総合11位)
正しい北米って感じ。SPもFSもザ・北米男子。衣装が普段着だったところもザ・北米。FSはコンビネーション抜けまくりで…もう…

ジェレミー・テン(総合10位)
急速にサンデュ先輩化が進んでいてどうしようかと思いました。背が伸びたなーと思って感動していたのですが、客席で会ったら小柄でした。たぶん私(162cm)よりも。つまり、体の使い方が大きくなったってことか。すごいな。ジャンプはしょんぼりでしたが、これからが楽しみです。

村上大介(総合9位)
伸び伸びやっていて、ああ成長したなと思った選手のひとりでした。やっぱりスタミナ弱いとかジャンプ低空とかはあるけど、ようやく「やりたいこと」「やらせたいこと」「できること」の目処が立ったというか。SPのウエストサイド・モダン版は芋っぽいんですけどどうすればいいですか。大体、独特の芋っぽさというか泥臭さがWSSの魅力だと思うんですけど、あのアレンジだと色々拡散する…彼ならモダン版にしない方が似合うと思うんだけど。
その反面「ザ・ロック」は良い。後半でヘタらなくなるともっと良い。ていうか、そこだよなあ。それを思うと、モロゾフのプログラムで後半ステップを見せ場に「できる」っていうのはそれだけで凄いことなんだよ。

■アルテュム・ボロデュリン(総合8位)
SPのカリンカは曲が自然と手拍子を誘うのにどんどん速くなるから手拍子が無理になるデレツンな編曲だと思います。アダムの直後のFSは、ふわっと包み込むようなアダムの空気からボロデュリンの鋭いこれぞロシア!という空気に変わったのが何ともいえずぐっと来たねえ。そのぐっと来る感じが最後まで続かなかったのは残念だけど、このふたりとブレジナがトップ争いするようになると、相当面白いよ。だからこそジャンプが以下略。超がんばって!そこに食い込めるように村上君も超がんば!

小塚崇彦(総合7位)
小塚VS.アボットはかなり楽しみな対戦カードだったのですが(違)、小塚君は音楽の話に耳を傾けて対話しているみたいだったのに対し、ジェレアボは音楽と遊びたくて積極的に会話をしているみたいだったです。SPはね。小塚君が「そんじゃ遊ぼうか」って音楽に対して言えるようになると、強いんじゃないかなあ。一音一音の表現の中に、自分の心がすいーっと入っていく小塚崇彦がいつか見たい。見れるよね。
FSは明らかに緊張にやられて着氷がいちいち危うかったので…うーん、好きなんだけどね。ギタコン。盛り上がらないなんてことないと思うよ。すごく良い曲で、小塚君がこの曲を好きで、きちんと表現しているのがわかる。

アダム・リッポン(総合6位)
映像で見たときはSPの印象が良くてFSはイマイチだったんだけど、あれ凄く良いFSでした。いかにもソリッドな音の出るヴァイオリンがこの上なく柔らかく流れて、その感じが北米ベースながらロシアの影響を受けたアダムにすごく似合っていた。ジャンプミスこそあれ、彼のかもし出す雰囲気に浸れた4分50秒でした。本当に上に行って欲しいなあ。やっぱり3Aの安定は急務だ。

ジェレミー・アボット(総合5位)
ビバ!「90年代青春グラフィティ映画の主人公(ガールフレンドはウィノナ・ライダー的な意味で)」!もうSPね、私は幸せでしたよ。音楽と遊ぶようにビートルズを表現するジェレミーを見てさ。遊び心も洒脱さも切なさもある良いプログラムだわぁ。
FSはあれはどうしたんでしょう。飲まれた?うーん。JOの「オルガン付」素敵だったから、是非モノにして欲しいんだけどねえ。でもオルガン付ってオルガン抜く決まりとかあるの?

高橋大輔(総合4位)
まあ、とりあえずおかえんなさい。SPの6分間練習中は、明らかに嫌がらせかよお前第二グループ行けよってくらい滑りの質が違っていた。eyeは女の子誘っておいて一人で踊りだすみたいな感じが結構好きです。他人のいないタンゴもありだと思うので。あっこちゃんのリベルタンゴが「そこにいるあなた」を常に感じたのとは対極にあると思う。
FSは良い曲だなあと思いながら、モロゾフんとこにいた高橋君と今の高橋君の違いについて考えていた。ヒロインの心すら置き去りにして駆け抜けるロミオやファントムは、モロゾフの持つ少年性そのものだったのかもなあ。カメレンゴ氏の「道」は非常に社会性があって、自分を見てる誰かがいないと存在しえなくて、それが「自分を見てる誰か」に調子悪くても微笑めるくらいの人、例えばブラッドレーやプレオベールがやったら嵌るだろうなと思わせる部分なのかもしれない。ジャンプが決まったらふわっと笑ったり、思わずガッツポーズしたり、自然とお客さんを煽ってしまうような。
勿論、高橋君は非常に器用なタイプのスケーターで、それこそダーク路線からLuv letterみたいに爽やかな路線までいける人なんだけど、あの「先のことなんて知らない、今しかいらない、君の気持ちなんて関係ない、そんな僕でも受け止めてよ」みたいな我侭で情熱的でひりひりする少年性を越えて、ああいうプログラムでお客さんにふわっと笑うくらいになった彼が見たいんだな。こういう曲をあえてやるならさ。
でもって、モロゾフの少年性を表現する人って今あのチームにいないなと思った。美姫ちゃんも織田君も本人の個性のが強いし。こればっかりは相性だからねえ。でも私、今度モロゾフの少年性を体現する男子スケーターが現れたら是非「火の鳥」をやってみて欲しいです。今季の「火の鳥」を見ていて、あの曲のキーワードは少年性だとつくづく思ったので。

ミハル・ブレジナ(総合3位)
SPもFSもすごく良かった。溌剌としていて。特にFSの印象は一番良かったなあ。あの6分間練習が凄まじかったから、飲まれないかと心配したんだけど、いやはやあんな風に持って行っちゃうんだね。笑。かっこよかった。バトル好きなのはわかるけど、もっと本人の個性が練り込まれるプログラムだともっといいのに。アダムとボロデュリンが「僕はこう!」っていうのが見える分、そういう個性がまだまだ薄味なのは気になるな。技術的には一番安定しているんだけど。

ジョニー・ウィアー(総合2位)
SPとEXは一周回ってむしろ男らしい感じがして素敵でした。あそこまでやりきれば、かえってオトコマエってもんです。好きとか嫌いとかもうどうでもいい。立ち上がって喝采せざるを得ない。FSは得意路線で美しかったです。ジャッジやファンが求めるジョニーそのものだね。あれは。

ブライアン・ジュベール(総合1位)
ライズできゃあきゃあできて良かったです。なんか「俺の出番!」感が凄かった。ああいう無駄な説得力って必要だよなあ。今ユナ子が強いのも「あたしの出番!」感が女子で唯一常にあるからって気がしなくもない。そうなっていい選手は他にも何人かいるんだけど、まだそこに気持ちが持っていけていないというか。FSは貫禄あったけど、出来としてはうーん。ジュベ兄の良いFSってレア感高い。だって彼、勝ち方知ってる人だから。むー。

とりあえずFS前の6分間練習はみんな飛ばしすぎでした。牽制しあい、見せつけあいな空気で。あれはミハル可哀想っていうか体力温存しろよーと思っていたら…ねえ。やっぱりそれなりにまとめたジュベールとジョニーは経験勝ち、ミハルは若手のいけいけどんどん、高橋君は復帰途中、小塚ジェレアボはまだまだ蒼いってことですかね。いやしかし本当に面白かったです。いい演技は勿論スカっとするけど、崩れてしまった小塚君やジェレアボもきちんと「どう表現しよう」「どう立て直そう」という戦いを諦めてはおらず、それはそれですごく見ごたえがありました。